【絵本レビュー】ショーン・タン『ロスト・シング』|不思議な迷子が教えてくれる「居場所」の物語

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はじめに

今回紹介するのは、ショーン・タンの本格デビュー作『ロスト・シング』です。以前ご紹介した『夏のルール』とは異なり、こちらは文章量が多めで、一人称の文体で描かれています。わが家の子は最初、絵を眺めるだけで物語には入り込みにくそうでしたが、読み進めるうちに独特の世界観に惹き込まれていきました。

『ロスト・シング』のあらすじと魅力

物語は「迷子の不思議な生き物」との出会いから始まります。
赤いポットからタコ脚が出ているような奇妙な姿をしているのに、なぜかかわいい。けれど誰もその存在に気づかない──そんなロスト・シングに居場所を見つけてあげるストーリーです。

読み手によって「居場所」というテーマの受け取り方が変わるのが、この作品の魅力のひとつだと思います。

隅々まで楽しめる絵の世界

本編に入る前の「王冠の並び」は、物語ともリンクしていて印象的。インテリアとして飾りたくなるような美しさがあります。さらにページ背景に描かれた公式や設計図が物語の雰囲気をより深くしています。

また、最後には訳者の岸本佐知子さんによるあとがきが収録されており、それを読んでからもう一度本編を見返すと、新しい発見があるのも嬉しいポイントです。

映像化された『ロスト・シング』

驚いたのは、この作品にはDVDが付属していること。大型絵本を購入した後にA5版とDVDのセットを知ったのですが、なんとこの映像は アカデミー賞短編アニメーション部門を受賞 していました。

映像になると、子どもは動きや音も含めてストーリーに入り込み、より楽しんでいました。初めては物語をしっかり感じて、2回目以降は美しい映像そのものを気楽に楽しむのも良いと思います。

子どもと一緒に読むことで感じたこと

文章量が多いため、小さな子には少し難しい部分もありますが、親が一緒に読んであげれば世界観に入りやすくなります。「不思議な迷子の存在」「居場所の意味」といったテーマは、子どもなりに感じ取ってくれるはず。大人にとっても考えさせられる深い絵本です。

もっとショーン・タンを知りたい方へ

ショーン・タンの作品や活動について詳しく知りたい方は、日本公式サイトをご覧ください。

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